この本を読んで、自分がいかにヨーロッパについて無知かを知らされた。その分、勉強になったということなのだが、僕(ら)が国際情勢を語るとき、どうしてもアメリカという国の考え方を通して物言いすることが多くて、ヨーロッパは欧米で一括りに考えてしまい、ヨーロッパにはヨーロッパの独自の考え方があることを案外気付いていないのだと思う。
本の概略は、最初に、ヨーロッパという陸続きの地域は、自然的・地理的条件の違いや政治、経済、思想も異なる多様な民族と国家で構成され、歴史的に紛争の絶えないことに触れ、常に「ヨーロッパはひとつ」というアイデンティティの元に政治経済や軍事的安定のための努力がなされてきたとしている。特に、第二次大戦後においては、冷戦下での集団的安全保障のためのNATO(1949)の構築や経済のグローバル化に対応した経済統合としてのEC(1967)の構築がなされてきた。
冷戦終焉(1989)後は、ECがEU(1993)へ発展してきたが、戦後一貫してNATOもEC・EUもその範囲を拡大し続けている。その拡大が目指すものは、ヨーロッパが国際的に政治経済分野や安全保障分野で一定の力をもつとともに、アメリカやロシア、アジア、アラブと伍していくことであるが、同時に、ヨーロッパ内部の問題であるバルカン諸国の民族紛争や中東ヨーロッパにおける少数民族問題の沈静化や経済格差の解消等も目指している。
EUは、原加盟国12カ国から1995年にスウェーデン、フィンランド、オーストリア3国を、2004年にはエストニア、ポーランド、チェコなど中東ヨーロッパとキプロスなどの地中海の10国を加え、現在25カ国となっているが、今後もルーマニアやブルガリア、クロアチアなどのバルカン諸国、更にトルコなどもEUに参加予定となっている。
拡大EUの統合理念であり、加入基準となっているものは、政治においては民主主義、法の支配、人権・マイノリティの尊重であり、経済においては市場経済と競争力などであり、更には加盟国としての義務遂行能力である。
NATOについても同様の拡大を図ってきたが、大戦直後はアメリカの圧倒的な影響下にあったものが、冷戦後は徐々にヨーロッパの自立した動きが目立ってきている。コソボォ空爆からアフガン侵攻、イラク戦争と経過する中、アメリカがユニラテラリズム(単独行動主義)の色彩を強める中、EU主要国はマルチラテラリズム(多国間協調主義)の立場をとると同時に、域内だけでなく周辺諸国での紛争解決にも積極対応する方向性を示している。
著者は、最後に、こうした拡大ヨーロッパの進展が世界の新たな多極化をもたらすとともに、EUがアメリカと並び立つ勢力として成長するのではないかとしている。