このところのアメリカ経済の動きが気になるところである。昨年のサブプライムローン破綻から始まった金融危機は、大手金融法人の不良債権処理のために約75兆円という巨額公的資金の投入に至って、なお予断を許さぬ状況が続いている。
一連の動きが、アメリカ経済の自壊していく姿として見えてくるのは私だけだろうか。マスコミの報道など見ていると、金融危機は金融危機であって、実体経済とは無関係のように扱われることが多く、それは一過性の問題のように報道されているように思う。
確かに、株価の低落に一喜一憂しても始まらないし、大手の金融法人が破綻しようと、それはプレーヤーの交代でしかないのだが、その裏側で実体経済へ大きな影響を及ぼしているのである。
まず、信用収縮によって紙くず同然となった不良債権をどうするかという問題がある。アメリカ政府は巨額な公的資金でこれを買い取るとしているが、その値段によっては再建もままならず、関係している更に多くの金融法人が破綻するだろう。それに、これら債権をファンドとして財産運用している投資家も大きな損害を被ることになる。
このことが、金融機関を資産保全に走らせ、実体経済の担い手たる企業等への融資を減少させることになり、結果、企業活動を萎縮させることになる。それは単に、設備投資とかだけでなく、運転資金さえも確保できない状況をもたらすことになる。
また、こうした負の連鎖は、供給側の問題だけでなく、所得の減少や雇用の悪化をもたらすことで、需要側にも大きく影響し、消費マインドを著しく冷やすことにより、経済全体の負の連鎖として長く続くことになる。
アメリカ経済は、果たして、この負の連鎖に打ち勝つことができるのだろうか。私にはできないように思う。もともとアメリカの経済政策は、自国を世界の金融センターとして機能させ、その利鞘で豊かさを確保することに力を入れてきた関係で、生産という実体経済の場面では国際競争力もなく、弱体化している。このために金融システムが壊れると同時に生産場面の息の根が止まるように思える。それはGM等の自動車産業を見れば解ることである。
そればかりではない。サービス産業等の第三次産業も停滞し、アメリカ国内に大量の失業を生み出すと同時に消費マインドが極端に冷え込むことにより、生産から消費、もちろん輸出や輸入も含めて壊滅的な打撃を被るのだろうと思う。
そんな中、象徴的な出来事が起こった。公的資金投入法が米議会下院で否決されたことである。その後、預金者保護についての修正を経て可決されたものの、あの時点で世界恐慌が起こりかねない状況にあったにも関わらず米国国民はNOのサインを出したのである。そこには世界経済を牽引してきた国の自負もなければ責任もなかった。ただ、大衆からの不満をそのまま経済政策に持ち込んだ愚かさだけがあったように思う。
私は、このことをアメリカ的な自由主義の破綻として捉えている。一方で、個人の自由をわがままに主張する米国国民(大衆)がいて、他方に、国境を越えて金融経済活動する企業等がいて、米国という国家、ナショナルなアイデンティティが失われた結果なのだと考えている。
これまでアメリカは、自国の行動に、それは経済のみならず、政治、軍事、思想、文化も含めてという意味だが、世界性という意味づけをして成功してきたが、イラク・アフガンでの失敗やロシア・EU・中国の台頭、今回の経済破綻により、その世界性が単なる幻想でしかなく、米国というナショナルアイデンティティそのものが虚妄であったことが明らかになったのではないか。
今回の米国の経済破綻は、それ自体の回復が困難であると同時に、そうした精神的又は思想的な面での破綻からの回復という意味では大変難しい状況にあるように思う。